私達J-IINは12月16日、「拡大する(?)インパクト投資の現状とその展望」の題で、15人のインパクト投資家、VCファンド、起業家、経営者、コンサルタント等の方々をお招きし第5回目のWebinarを開催しました。
世界中で持続可能投資が株式市場を中心に急拡大しており、Global Sustainable Investment Alliance (GSIA) の2020 Review等によれば、世界の投資総額の30%を超え、35兆米ドルを超える規模となりました。その中でも、ESGインテグレーションという、ESGの視点を投資決定に折り込む手法による投資が急拡大し、25兆米ドルに達しました。インパクト投資も、持続可能投資の一手法として、0.7兆米ドルを記録しています。2020〜2021年は、パンデミックにより社会的格差/不平等さが世界規模で浮き彫りにされ、気候変動リスク喚起により危機意識が高まり、この額は更に増加していると予測されます。
投資を通じて、投資利益の他に、持続可能な環境/社会を作るという目的への関心が高まったことを歓迎すべきだと思います。その一方で、投資戦略としてのESGインテグレーションだけでは、投資資金が必要な人々に行き着いていない点も認識する必要があります。例えば、2020年の発展途上国への民間資金の流入は、7千億米ドルの減少となっています。インパクト投資の目的が、社会環境課題を解決することであり、また、その過程で上がる経済的利益も公平平等に分配することにあるとするならば、まさに今インパクト投資こそ、社会環境課題解決のための有効な手段の一つとして、より一層注目されるべきではないでしょうか。
プレゼンテーションでは、気候変動と社会的分配の公平平等化という課題に関連して、環境再生型農業、循環型経済、ジェンダー/エンパワーメントの3つの領域に焦点を当てました。大手食品企業や関連研究機関とのパートナーを組んで、農家の環境再生型農業への変換をサポートするRePlant Fund。先進のデータ利用テクノロジーを駆使し、インドで農家向け情報提供プラットフォームを経営する農家のネットワークを作るAgroStar。循環型経済へ、新しい技術を提供するベンチャー/技術/プラットフォームへ投資するCirculate Capital。その投資先でもあるインドのリサイクリング企業であるNepra。Nepraは、インド全体で1.5-4百万人いると言われるゴミ収拾人を組織し、他と比較して高い安定的収入とトレーニングなどを提供して社会的インパクト創出を目指しています。また、ジェンダー/エンパワーメントの領域では、ナイジェリアで女性が設立した最初のVCである、Aruwa Capitalとその投資先を紹介しました。そして、単に企業や社会経済での地位の不平等さだけでなく、女性が直面する様々な社会的課題の解決のため、ジェンダーを投資戦略を核に据えて、その投資からのリターンを使い、NPO/研究機関等と具体的解決策を作ることを目的とするWomen of World Endowment (WoWE)を取り上げました。
こうした、グローバルに取り組む必要のある課題領域のビジネスに、より多くの資金を集めるためには、民間セクター、中でも機関投資家の資金が必要です。そして資金流入を加速させるには、機関投資家が求める、投資ポートフォリオ間の比較を可能とするグローバルな仕組みが不可欠で、そのために、ESG関連投資戦略の明確化、レーティング等根拠の透明化、レポーティングの標準化等が必要とされます。このため、ヨーロッパが先頭になり、定義、規制の枠組みが作られ、世界に広められようとしています。インパクト投資の分野にもこの動きは波及しており、国際機関による、インパクト戦略作成からインパクト測定/マネージメントに至るプロセスの標準化基準、国際財務報告基準(IFRS)財団による国際持続可能投資基準審議会(ISSB)設立、更にはGlobal Impact Investing Network (GIIN)によるCOMPASといわれるインパクトの比較/評価方法の枠組み作りに至るまで、グローバルな共通基準に則ってインパクト投資を標準化させる動きが様々なレベルで始まっています。プレゼンテーションでは更に、Blended Financeなど、機関投資家の資金を新興国へ向けさせるために重要な投資リスク軽減のための仕組み、Impact-Weighted Accounts(インパクト加重会計)、Natural Asset Company(自然資産会社)など、新しい試みについても触れました。
前回までとは違い、今回はより俯瞰的に、インパクト投資が解決すべきグローバルな課題をとりあげ、それに向かっているファンド/企業の動きをご紹介し、新興国ですでにビジネスを展開されている参加者の方々に、それらの課題との結びつきや、目指す方向に関する議論をいたしました。議論の中で、グローバルな課題解決のためのインパクトを、持続可能な形で作り出すビジネスモデルを確立するのは、試行錯誤を要し簡単ではないこと。それを投資家に理解を得るよう説明するためには、投資家の考えに対する理解を深め、また技術も必要であること。一方で、ビジネス/収益拡大に焦点を当てていて、インパクトについて焦点を当てていないこと。ビジネスモデルにインパクトの視点を加えることにより、ビジネスの可能性をさらに高めることができること。そのためには、どのようなインパクトに着目し、どのように作っていくか、を理解し実践するサポートが必要であること、など実務体験に基づく具体的な視点が多数共有されました。
日本でも持続可能投資は急速に拡大してきていますが、依然3兆米ドル規模であり、市場投資額の25%以下となっています。ESGインテグレーションが7割を占め、インパクト投資は0.005兆米ドル以下となっており、SDGsなどのテーマを掲げる投資を含めても0.07兆米ドルに過ぎません。この現状を見た時、インパクト投資に関心を持ち、新興国でのリスクを取ることができる投資家を日本国内で見つけることは、残念ながら至難の業です。J-IINは、新興国リスクを取ることのできる国内/海外投資家や海外のインパクト投資家とのネットワークづくり、新興国を目指す起業家との連携を通じた起業先でどのようにインパクトを作り出すか、という点への発信等をこれからも地道に続けることにより、実際に必要とする人々へ資金が届く日本発インパクト投資の拡大を目指したいと考えています。