私達J-IINは先週4月12日、”“日本発インパクト投資を新興国へ拡大するためにできること”をテーマに、3人のパネリストと17人のインパクト投資家、VCファンド、起業家、経営者、コンサルタント等の方々との間で、第6回Webinarを開催しました。30分程のパネルディスカッションの後、参加された方々も全員加わり、グループディスカッションに移行。時間を過ぎても活発な議論/意見交換が続きました。
パネリストとして、ミャンマーで、マイクロファイナンス向けSaaS、地方個人商店向けコマース配送業を行うリンクルージョン株式会社創業者の黒柳英哲さん。同じくミャンマーでマイクロファイナンス経営、コーヒー事業への投資も行う、ワラム株式会社創業者加藤侑子さん。そして、社会課題解決を目指す起業家の事業立ち上げサポートからシード/アーリー投資までを行っていらっしゃる、株式会社taliki/taliki ファンド創業者中村多伽さんをお招きしました。
Webinarでは、まずパネリストの方々から、インパクト投資に関わる投資家、起業家、エコシステムへのご意見、その上で新興国への投資拡大のためにできることは何かについてのご見解を共有していただきました。
リンクルージョン黒柳さんは、時間軸の重要性に触れ、一般的に投資家を代表するファンド等の時間軸が、起業家を支援するには短く、しかも5年ほどの間に、ハイリターンを上げなければ最終投資家を説得できないことをご指摘。人材育成、研究開発なども考慮して、時間軸を長くする必要がある、とのご意見を述べられました。
ワラム加藤さんは、新興国だから必ず成長が早いと一律に期待するのではなく、起業家の目指すインパクトの内容とスケールを理解して投資をする事がインパクト投資なのではないか、とご指摘。また、その中でパートナーとして並走できる投資家の存在の重要性を挙げられました。
taliki中村さんからは、社会課題解決を投資の先に目指す時、単に社会的リターンをファイナンシャルリターンに変換するのではない新しい評価軸が必要となり、更に、新評価軸の中でも定量化できない価値を切り捨てるのではなく、ビジネス/投資判断に反映させていくことが重要になるのでは、とのご指摘をいただきました。
そして、新興国リスクに関して、中村さんから、新興国ビジネスの場合、例えば市場の情報はリスク判断で重要となるが、その背景にある商慣習や文化的な情報も含めて、投資家が実感できるように伝達することが一つの鍵となる、とのご意見。加藤さんからも、マーケットに関する知識やビジネスのインパクトを見える化して投資家に伝えることにより、投資家が単なる共感の有無ではなく、情報に基づいて判断することを助け、それがよりインパクトの高いビジネスへの投資につながるのでは、とのご意見をいただきました。より大きなリスクを取れるフィランソロピー投資家や、リスクに関してLPを説得できるGPの存在が、特に新興国リスクを取って投資を拡大するには必要だ、とのご意見も黒柳さんからいただきました。
パネリストの方々のご意見を受け、参加者の方々が5つのグループに分かれ、(1)インパクト投資家を拡大するためにできること、(2)インパクト起業家を拡大するためにできること、そして、(3)新興国投資を拡大するためにできること、という本日のテーマに関連する3つの要素について更に議論を進めました。以下、各グループから出されたご意見を、いくつかのヘッドラインにまとめたものです。
エンジェル投資家/フィランソロピーの必要性:機関投資家からファンドなどを通じての資金提供が開始されるまでの空白を埋める、エンジェル投資家/戦略フィランソロピーといった、より高いリスクを取って資金提供できる投資家層を発掘する。
エコシステムの拡充:新興国向けに限らず、起業家サポートのためのエコシステムの拡充が必要。その中で、成功した起業家や失敗を経験した起業家、また、インパクト投資/ビジネスや新興国の知見を持つコーチとの交流の場を拡大していく。
ファンドマネジャー育成: 新興国インパクト投資を遂行できるファンドマネジャーの育成。その際には、起業家としての経験や通常ファンド投資の経験など、多様な経験を持つ人材を対象とする。
新興国投資情報の提供: 投資家が必要とするのは、経済など数字の情報だけでなく、現地での経験に基づいた市場などビジネスに関する情報や、投資実績/成功事例など、提供することにより投資家を巻き込むことができる情報。その際、機関投資家よりも事業会社の方が、分野を絞れば、情報への反応がより高い可能性があるのでは、という意見も出された。
日本におけるインパクト投資の規模は世界のインパクト投資総額の1%未満です。グローバルな動きに呼応して、インパクト投資の要件や規則の徹底、インパクトウォッシュを避けるための開示条件や測定方法の確立も重要です。しかしこれは投資家サイドからのアプローチであり、インパクト投資規制やその完璧性に注視し過ぎると、投資家内でもインパクト投資拡大を阻害する逆効果となる可能性もあります。
我々J-IINは、起業家と投資家が同じ言語でインパクトとビジネスに関して議論する場を作り、新興国でのインパクトビジネス/投資拡大を目標にしています。今回のWebinarはその第一歩だったと思います。すでにインパクト創出ビジネスや投資を、様々なお立場で実践されていらっしゃる方々が参加されているため、インパクトとビジネスリターン両立を理解されており、具体的かつビジョンにも触れられる、という大変深い内容の議論でした。今後とも、起業家と投資家の混合というフォーマットを大切に、本日ご指摘のあった4つの点の達成を助けるためにも、起業家/投資家双方から信頼され、活発な議論ができるプラットフォーム作りを続けていきます。