私達J-IINは先月7月29日、「ビジネス/投資の先に見えるもの/目指すもの」をテー
マに、2人のパネリストと16人のインパクト投資家、VCファンド、起業家、経営者、
コンサルタント等の方々との間で、第7回Webinarを開催しました。御参加いただい
た方々の積極的なご発言もあり、結果的にはパネリストの方を中心としたティーチ
イン形式に近くなり、時間を過ぎて活発な議論/意見交換が続きました。
パネリストとしてお招きしたのは、BWizCapital代表取締役 加藤毅様、ファルス株
式会社代表取締役の高橋信彰様のお二人です。加藤さんは、興銀/みずほ銀行グルー
プから日本産業パートナーズへ参画。数々のプライベートエクイティ案件を手掛け
られた後インドに渡られ、M&A及び投資事業に従事。帰国後2017年、BWiz Capitalを
立ち上げ、アジア/アフリカの、生活に必要なサービスを十分に受けられない人々
(“The underserved”)をターゲットとする事業へのインパクト投資を展開されてい
ます。高橋さんは、オリックス株式会社、ASG税理士法人等を経て、未利用空間の有
効活用を掲げて、株式会社フィルカンパニーを立ち上げられ、2016年にマザーズへ
上場。上場翌日にカンボジアに渡られ、2018年JC Financeを設立。そして2020年に
ファルス株式会社を立ち上げられ、新興国への金融と事業を通じて、“幸せ”を世
界に伝播することを目標にインパクト事業/投資を実践されていらっしゃいます。お
二人とも、ビジネス/投資の先に、作りたい社会とそれに必要なインパクトを想い描
かれる一方で、ビジネス/投資として、スケールを拡大しリターンを大きくすること
に関しては何ら妥協をされていません。
まずお伺いしたのは、経歴も現在用いていらっしゃるアプローチも異なるお二人が
、何故新興国で投資を始められたのかについてです。高橋さんは、バックパックで
旅行をされていた学生時代から新興国によく行かれていて、日本のように物がなく
ても、地元の人が笑顔で幸せに過ごすことができることを実感していらっしゃいま
す。その新興国の持つエネルギーと日本の持つ技術や資金と組み合わせ、希望ある
未来を双方の人々にもたらすため、新興国での投資を始められました。加藤さんは
、もともとインパクト投資の手法にご興味があり、インドに渡られた際、実際、投
資により社会課題を解決していく起業家に出会うことにより、新興国の社会課題を
投資により解決することが民間投資家として世界に貢献できる一つの道だ、という
お考えを強くされました。
一方で、新興国でインパクト投資を通して実感されることを、如何に日本の投資家
に伝え理解してもらえるかという点でお二人とも苦労されていらっしゃるようです
。まずは、社会課題を投資/ビジネスを通じて解決することに、日本の一般投資家が
まだあまり興味を示さないこと。ましてや、新興国、特に経済規模の小さい新興国
での課題解決については余計に関心が薄いことも認識されていらっしゃいます。
そうしたご苦労から、加藤さんは、投資選択の際、インパクト創出とビジネスのベ
クトルを一致させ、スケール拡大に重点を置くことにより、リターンを高め、それ
により投資家の関心を高めるだけではなく、自分達のExitも確保し易くすることが
できる、とおっしゃっています。そのためには、シビアに投資先の事業や起業家の
姿勢を吟味し、適切なアドバイスをする必要があることを強調されていらっしゃい
ます。EmpathyとEngagementの両方が必要であるということです。
一方高橋さんは、日本の中でも、老齢化などによる人口減少に直面する地方の事業
会社や地銀などの投資家層を中心に、新興国が持つ可能性を共有してもらうことに
より、地方の未来を明るくする手段にしてもらう、いわば、“自分ごとにしてもら
う”ことにより、関心を高めることに気をつけていらっしゃるとのことです。
実際にどのような投資家から資金調達をするのかは重要な点です。お二人のお話か
ら、生保や年金機関など機関投資家に直接当たっても、新興国向けインパクトかつ
ベンチャー投資への資金調達は、規模やリスクの観点から難しいこと。むしろ、個
人事業主、オーナー系企業など、資金を自分で動かし、新興国と結びつけることに
よりシナジーができる投資家を中心に資金調達をするのが良いのでは、という考え
方も浮かびました。
また、ご参加の方々にもご意見を伺ったところ、事業会社だけでなく、日本におい
ては、個人投資家が重要な役割を果たす可能性があるとのご意見が出されました。
しかも、個人富裕層だけでなく、クラウドファンディングなどを通して投資する小
口投資家で、投資によって創られるインパクトに共感を持ってアプローチできる層
も重要とのご指摘がありました。アメリカやヨーロッパのようにファミリーオフィ
スや財団の活動が活発ではない日本において、規模やリスクの点から、機関投資家
には関与できず、公的資金の対象とはならない事業や投資先への資金供給元として
、個人投資家層を如何に取り込むかが課題となりそうです。
最後に、パネルのお二人に、日本の投資家を新興国インパクト投資に巻き込むには
、ズバリどうしたら良いかを直截的に伺いました。加藤さんからは、知見と多様性
を兼ね備える、J-IINのようなネットワークがファンドを作りインパクト投資を行な
ったら良いのでは、というご意見をいただきました。高橋さんも、それに賛同しつ
つ、ふるさと納税のように、個人が新興国インパクト投資へ資金提供できる“仕掛
け”を考案することも必要なのではとのご指摘もいただきました。
ご参加の方々からも、経験豊富なプロの目による選別を経た投資先へ個人投資家の
資金を投入するストラクチャーの将来性は大きいのでは、といったご意見や、特定
のグローバルインパクト解決を定款に組み込み、ほぼ100%の株主が個人投資家とい
う、まさしく、インパクトとビジネスと個人投資家が結びついた株式会社ユーグレ
ナのような実例のご指摘。また、クラウドファンディングを通して寄付に参加され
た個人投資家が、次に募集された投資ラウンドでもリスクを取って資本参加された
ミャンマーでの事業の例についても言及がありました。
今回のWebinarは、J-IINのように、インパクト投資/ビジネスを実践されていらっし
ゃる方々のネットワークへのニーズが今後高まっていく可能性が示唆され、その意
味で大変有意義な議論の場であったと思います。今後とも、インパクト創出の可能
性のある事業に関わる起業家や投資家をお招きする一方、創出されるインパクトへ
のアドバイスや、ビジネスリターン改善へのアドバイスなどを実際に行うことによ
りネットワークとしての価値を高め、日本発新興国向けインパクト投資の拡大に貢
献することを目指して参ります。第7回Webinar第7回Webinar