2021年12月に、GSG(Global Steering Group for Impact Investment)の下に設置されたインパクトタスクフォース(Impact Task Force - ITF) により、掲題のレポート” Time to Deliver“ が発表されましたので、ご紹介します。
このレポートは、2020年GSGグローバル会議の参加者を中心に、世界の450人以上のリーダーが署名したインパクト投資を加速する宣言書を出発点として、作成されました。日本インパクト投資ネットワーク(J-IIN)も、その署名人として参加しています。
GSGは、2015年にG7(当時はG8)主導でのもと創設されました。インパクト投資を産学官民協働のもと、全世界で発展させるため、主として投資家側の戦略/政策を議論/発信するグループとして、英国に本部を置き活動しています。
レポートは1)メインレポートの”Time to Deliver”、2)“Financing a better world requires impact transparency, integrity and Harmonization”と 3)“Mobilizing Institutional Capital towards the SDGs and a Just Transition”という二つのテーマレポートの3部から構成されています。その中で様々な具体例に触れながら、民間資金の動員を如何にして加速するかに焦点を当て、以下の主な点を結論として挙げています。
1) 官民協働で民間資金動員への障壁を取り除く為に、社会的意識の変化を利用した企業行動の変容、ディジタル技術を活用した新しい環境社会インパクトの作り方/測り方など、今までは考えられなかった方法を活用することが可能であること。
2) 民間資金動員の鍵となるインパクト情報の透明性、標準化、公正性を加速させることが重要であること – “測れないものはマネージできない”という原則のもと、開示されるインパクトの質の向上のため、インパクトを企業会計に取り入れることを義務化すべく、インパクトを組み入れた会計/監査/保証制度確立を目指す。
3) SDGs/Just Transitionを実現するため、民間機関投資家からの新興国への資金動員を可能とする、具体的な金融の仕組みを作り上げる必要があること。- レポートは特にBlended Finance のスキームに注目し、実際に民間機関投資家の参入障壁を取り除いた例も含む様々な具体例を挙げて可能性を提示。
そして、このレポートを基に、インパクト基準やレポーテイングが更に浸透していくよう、新興国やSMEの視点や実情を枠組み設計過程/機能に組み込む努力が必要とも述べています。
このレポートは、インパクト投資の現状を的確にまとめています。今後進むべき方向性として、世界全体が直面する環境社会課題の解決こそがインパクト投資全体の目的であると示しています。、さらにその解決にあたり、取り残される人や地域が無いようにするという、対象と分配方法についての考え方も示し、必要な共同作業のあり方を提示しています。 現在、個々の企業/投資家が、それぞれ違う地域で違う対象へのインパクトを目指していることが多い中、地球の環境社会全体へのインパクトを見据えることが緊急に必要になっている点を強調している点で、示唆に富んだレポートだと考えます。
最後に、レポートの提言の方向性は、2021年12月に開催したJ-IIN Webinarでも取り上げたインパクト/ESG投資の現状と将来の方向性についての見方とほぼ一致しています。また、J-IINが目指している、ビジネスと投資家の相互理解と協働の場は、レポートの強調する、必要とされるインパクトを理解する上で不可欠です。更に、新興国におけるインパクト投資を、インパクト投資の目指す方向性に欠かせないものとしている点にも共感できます。 J-IINは今後とも、このアプローチを保ちながら、日本発のインパクト起業家、投資家の後押しを続けていくことができればと思います。